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2014年1月15日 (水)

草木のいのちを染め、こころを織る

トン、トン、ハタリ、…トンハタリ
ハタを織る 月下の村の すすけた障子は 小さい灯りだけど 明るい

「人目おもはず 人さえ言はにや 織りて着しぞや 縦縞を」(大和民謡)
…こんな機織唄もあった。

言って見れば、昔の手織物には、人の「いのち」が織り込まれていた。子のため、孫のため、また夫のため。これは常に、「ため」よかれ…、として織られるものであった。

昭和の初め頃にはすでに、この手織も衰滅に瀕していた。この労作も、無駄のことに、ツマらぬことに、思はれたのである。

この道、起さざめや。……私共は、即ちその復興と債権とに参じた。
月明織(げつめいおり)がそれである。

「天のめぐみ 地のいはひを うけにつつ われらまことの ヌノ織らむとす」
心こもれる ヌノのつよさには、色もまた 美しくなければならない。
ここに、草根木皮による染色は呼び興されて「草木染」と命名された。

尚、月明織は絹をもって紬に織られ、草木縞は木綿を以て、手織りされる…。
これは、草木によって一切を成されている。

「草木染」と「月明織」の意味と理念を力強く謳うこの詩は、私の父・山崎斌の作です。

文筆家としても注目されながら、草木染織を広める活動に一生を捧げた父の文才を惜しむ声も大きかっただけに、父の意志を大切にしたい。私は、日本の手工芸の真実を守り伝えるため、本当の草木染織に、かたくななまでにこだわり続けています。
では、草木染織の真実とは何なのでしょうか…。

◆色のはじめは薬

雛祭りの菱餅の三色は子供の産着の色、と私は考えています。産着は昔から、藍で染めた青、ウコンやキハダの黄色、紅花染の赤に決まっていました。皮膚にも良くて虫除けにもなるからです。

今は、化学染料で染めた色物よりは良いということで白い肌着をつけますが、色を選ぶことで親は子供の成長を助けてきました。
それで、子供の節句の雛祭りには、餅を赤と黄色に染め、藍の替わりに季節の草であるヨモギを入れて、水を呼び天災から守るとされる菱の実を型どった菱餅を供え、わが子の健やかな成長を祈ったのだ、と考えたいのです。

もちろんこれは、染織に都合のいいように解釈した話です。私は学者でも研究者でもありませんので、根拠は自分の経験と信念だけです。それをまずお断りして、いささか私の考えを申し上げたいと思います。

およそ染織における色の初めは白であり、白帛です。神に捧げる純白の白い帛にするために、植物の繊維で織った布を水に晒し、或は日光に晒して漂白しました。
その白帛に色をつけるという行為は、植物によって身を守れるという経験と知恵から生まれてきたと私は思います。

例えば、キハダの木の内皮を煎じた汁は、塗れば打ち身や火傷の薬になり、飲んで胃腸に良いことは早くから知られていました。
そこで、キハダを煎じて飲むため布で濾したところ、布が黄色くなった、或は煎じ汁を傷に塗って布で縛っておいたら黄色い染みがついた。それらは洗ってもとれない。しかし、その黄色い部分には虫がつかないようだ…。その経験から、長く保存するものはキハダの汁で黄色くしたほうがいいということが分かってきます。キハダで染めた御経の紙がその例です。

古代の染料のほとんどが漢方の生薬であり、内服して効果のあるものばかりが染料として残っているのはそのためでしょう。

ですから、毒草はタンニン分が強くて染めやすいはずなのに、毒草で染めたものは一つもありません。危ないものは家の中に持ち込まないというのが、昔の暮らしの鉄則でした。

衣類は肌につけ、身を守るものだから、少しでも体に良いように、また手間ひまかけて家族のために織るものだから、虫がつかないようにして長持ちさせたいという気持ちから、植物を選び、色を選んで染めたのが染色のはじめでしょう。

聖徳太子は推古天皇十一年に冠位十二階を定め、十二の位に、紫・青・赤・黄・白・黒の順にその濃淡で色をわりあてました。
それぞれどの染料が使われたか資料はありませんが、紫は紫草、青は藍、赤は紅花だと思います。体にいいからです。

紅花は栽培しにくいうえ、染め方も大変複雑で手間がかかります。それにも関わらず使われたのは、最も菌の入りやすい口元に紅をつけたことからもわかるように、殺菌作用があり血行を良くする効果もあるためです。

紫草の根も皮膚病の薬です。しかし染めにくく絶対量も少ない紫根の紫や紅花の赤は、高貴な人だけしか身につけることの出来ない色でした。庶民は周りに生えている草木の汁で染めた茶色い布をまとっていました。いつの時代も、貴人には貴人の、庶民には庶民の、体にいい色があったのです。

先人の手技の素晴らしさはすべて、千年、二千年という世界的なスケールでの経験の累積があって初めて生まれてきたものなのです。

山崎桃麿 著
箕輪直子 著
淡交社 発行
『草木染めをしてみませんか 〜工房で、キッチンで』、より

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